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計算方法の詳しい解説
このページは、本サイトが表示している「実力推定」「運の指標」「トップ確率」「進出確率」などが、どういう計算から出てきた数字なのかを、用語集より一段深く説明するものです。
数式は四則演算の範囲で読めるように書いています。また、それぞれの計算が何を単純化しているか(=どこまで信用してよいか)も、最後の章で隠さず書きます。
1. データの出所と集計の範囲
元になっているのは、有志の方が公開しているM リーグ牌譜です。 全局の配牌・ツモ・打牌・鳴き・和了が記録された牌譜で、2018-19から現在まで1,924半荘・23,445局を毎朝取り込んでいます。
試合のポイントは牌譜の点数からMリーグのルールどおりに計算しています。25,000点持ち30,000点返し、順位点は+30/+10/−10/−30(トップにオカ+20)、 同点は順位点を分け合い、割り切れない端数は起家に近い人へ。終局時に残った供託はトップが受け取ります。 今季の公式成績と照合し、ポイント・局数・副露率・リーチ率・和了率・放銃率が一致することを確認しています(公式は率を小数第2位で切り捨て表示)。
牌譜の中には、鳴きの記録が欠けている・持っていない牌を捨てているなど、書き起こしの不備がある局がわずかにあります(63局)。 こうした局は、局単位で打ち方と運の指標から除いています。試合の結果(ポイント)は点数が正しい限りそのまま使います。
2. 「実力推定」— 平均への回帰
麻雀の成績は、実力と運の両方で決まります。少ない試合数で好成績の選手は、実力が高いのかもしれないし、たまたまツイていただけかもしれません。 「実力推定」は、この二つを見分けるために実績をリーグ平均の方へ引き戻して見積もった値です。 試合数が少ないうちは大きく引き戻し、試合数が増えるほど実績に近づけます。
2.1 半分安定する件数 k
どれだけ引き戻すかは、指標ごとの「半分安定する件数」kで決まります。k件のデータがあると、実績の半分が実力(または打ち方の個性)、半分が運で説明できる、という件数です。
kは次のように求めます。選手ごとのシーズン成績のばらつきは「本当の実力の差」と「運によるばらつき」の足し算です。 運によるばらつきは試合数から計算できる(試合数が4倍になると半分になる)ので、全体のばらつきから差し引くと、本当の実力の差が残ります。2018-19以降のレギュラーシーズンで1シーズン10半荘以上出場した、のべ256人分のデータを使っています。
| 指標 | k(半荘換算) | 90%区間 | 1シーズンでの信頼度 |
|---|---|---|---|
| 副露率 | 約5半荘 | 約4半荘〜約9半荘 | 83% |
| 立直率 | 約46半荘 | 約31半荘〜約102半荘 | 35% |
| 和了率 | 約90半荘 | 約54半荘〜約279半荘 | 22% |
| 放銃率 | 約85半荘 | 約50半荘〜約281半荘 | 23% |
| 1半荘あたりポイント | 約408半荘 | 約143半荘〜上限なし | 6% |
| 平均着順 | 約499半荘 | 約124半荘〜上限なし | 5% |
2.2 推定値の計算
実力推定は、実績とリーグ平均を、試合数nとkの比で混ぜた値です。
推定値 = (n × 実績 + k × リーグ平均) ÷ (n + k)
たとえば佐々木寿人選手は通算302半荘で1半荘あたり+2.9pt。ポイントのkは約408半荘、リーグ平均は0なので、(302 × 2.9 + 408 × 0) ÷ (302 + 408) ≈ +1.2が実力推定になります。 「信頼度」はn ÷ (n + k)で、この例では43%です。
直感的には、シーズン序盤の打率ランキングと同じです。開幕10打席で打率5割の打者を「5割打者」とは誰も思いません。 Mリーグの着順やポイントは、その打率よりもずっと運の影響が大きい指標なので、推定値はかなり平均に寄ります。
2.3 推定の幅と「上限なし」
k自体も推定値なので、選手をくじ引きのように選び直す計算(ブートストラップ)を300回行い、90%区間を出しています。 着順やポイントでは区間の上限が定まりません。これは、今のデータでは「プロ同士の成績の差はすべて運」という可能性すら否定できない、という意味です。 各選手の推定値の横にある90%区間は、本当の値がその範囲に入ると見込まれる幅です。
3. パーセンタイルと打ち方のタグ
パーセンタイルは、同じシーズンで規定の試合数(シーズンは10半荘、通算は40半荘)以上に出場した選手の中での位置です。 実績ではなく推定値で並べているので、少ない試合数の偶然で上位に来ることはありません。
バーの色は、良し悪しのある指標(和了率や放銃率など)だけに付けています。赤が良い側、青が悪い側です。 立直率や副露率のように「多いほど良い」とは言えない指標は、打ち方の違いを表すものとして灰色にしています。
打ち方のタグ(「鳴き多め」「リーチ多め」など)は、通算の推定値が上位または下位25%に入り、しかもその指標の信頼度が50%以上の場合だけ付けています。 データが少なくて偶然かもしれない特徴には、タグを付けません。
4. 運の指標
運の指標は、どれも「選手の判断では変えられないもの」を、期待値との差で測っています。プラスは平均より恵まれていたことを表します。
| 指標 | 測り方 |
|---|---|
| 配牌の良さ | 配牌の向聴数が、リーグ平均よりどれだけ少ないか |
| 配牌のドラ・赤 | 配牌に入っていたドラと赤ドラの枚数の、リーグ平均との差 |
| ツモの良さ | ツモで手が進んだ回数と、そのときの手牌から計算した「手が進む確率」との差 |
| 裏ドラ運 | リーチで和了したときの裏ドラの枚数と、見えていない牌から計算した期待値との差 |
| 一発率 | リーチ1回あたりの一発の率の、リーグ平均との差 |
4.1 ツモの良さは「その手牌から見た確率」と比べる
ツモの良さは、運の中でも成績への影響がいちばん大きい部分です。ただし、測り方を間違えると実力が混ざります。 たとえば「同じ向聴数なら、手が進む確率はみな同じ」とみなすと、受け入れの広い形を残す牌効率の上手な選手ほど「ツモが良かった」ことになってしまいます。
そこで、ツモのたびに、その選手が実際に残していた手牌について「次のツモで向聴数が下がる牌が、見えていない牌の中に何枚あるか」を数え、手が進む確率 = 有効牌の残り枚数 ÷ 見えていない牌の枚数を出しています。 実際に手が進んだかどうかとこの確率との差は、どんな打ち方をしていても平均0になるので、純粋な運とみなせます。
※ 他家は使いやすい牌を抱えていることが多く、単純に数えた確率は実際より少し高めに出ます。そのため、向聴数ごとに実際の頻度と合うよう比率で補正しています。
5. 運を除いたポイント
運の指標がわかれば、その分を成績から差し引くことができます。各局について「その局の運の指標(自分と相手3人分)」から「その局で動いた期待ポイント」を予測する式を作り、 予測された分を運による獲得ポイントとして差し引きます。
ポイントは、運の指標がどれも平均0になるように作ってあることです。差し引いても平均的な評価は変わらず、ばらつきだけが減ります。 マラソンで、追い風を受けた区間のタイムを少し足し、向かい風の区間を少し引いて比べるのと同じです。風の補正は平均すると0なので、 誰かを一方的に有利にも不利にもせず、「たまたま風に恵まれた」分だけを取り除きます。
この補正で1半荘ごとのポイントのばらつき(分散)は20%小さくなり、 半分安定する試合数は約408半荘から約329半荘に縮みます。 予測の式は、あるシーズンの補正にそのシーズン自身の結果を使わないよう、シーズンごとに他のシーズンのデータだけで作っています。
同じ考え方はポーカーのAIの評価(AIVAT)や、東京大学による麻雀の研究(MJ-DLVAT)でも使われています。 これらは局面の価値をニューラルネットワークで評価してより多くの運を取り除いていますが、本サイトでは牌譜から直接数えられる運に限っています。
6. トップ確率とポイントの内訳
6.1 トップ確率
試合ページのトップ確率は、各局の開始時点から残りの局を何度もシミュレーションして求めています。 1局ごとに、過去の実際の局の結果(親から見た4人の点数の増減と、親が連荘したかどうか)を無作為に1つ選んで当てはめ、試合が終わるまで繰り返します。 これを2,000回行い、各選手がトップで終わった割合を確率とします。
Mリーグのルールに合わせ、トビはなし、西入なし、南4局の親は和了や聴牌で連荘を続けます(アガリやめなし)。 オーラスは他の局と戦い方が違うので、オーラスの結果はオーラスの局から選びます。 また、あるシーズンの確率には、そのシーズン以外の局の結果だけを使っています。
精度の確認として、予測したトップ確率と実際の結果を比べています。全員を25%と予測した場合と比べて予測誤差(ブライアスコア)は29%小さく、 予測した確率と実際にトップになった割合もよく一致しています。
| 予測したトップ確率(平均) | 実際にトップになった割合 | 局面の数 |
|---|---|---|
| 4% | 4% | 28,605 |
| 15% | 16% | 17,679 |
| 25% | 25% | 23,195 |
| 35% | 36% | 6,568 |
| 45% | 43% | 4,689 |
| 55% | 54% | 3,136 |
| 65% | 62% | 2,569 |
| 75% | 73% | 2,261 |
| 85% | 84% | 2,029 |
| 96% | 95% | 3,049 |
6.2 ポイントの内訳(期待ポイントの変化)
同じシミュレーションで、各局の開始時点での「最終ポイントの期待値」も出しています。ある局の前後で期待値がどれだけ動いたかが、その局がその選手にもたらした価値です。 局ごとの変化を足し合わせると、試合の最終ポイントとぴったり一致します。
選手ページの「ポイントの内訳」は、この変化を局の結果ごと(自分の和了・放銃・他家のツモ・他家同士の出和了り・流局)に集計したものです。 試合ページの「この試合を決めた一局」は、誰かの期待ポイントを最も大きく動かした局です。
7. 局収支の内訳
局収支は、1局あたりの点数の増減を、何によって増えたか・減ったかに分けたものです。分類はとつげき東北・伊藤毅志(2009)の分析にならい、 和了を「リーチ」「副露」「ダマ」、放銃を相手の手の種類(リーチ・副露・ダマ)で分け、他家のツモとその他(流局など)を加えています。 各項目の合計が、その選手の1局あたりの平均収支になります。
リーグ全体では、1局あたりリーチでの和了が+924点、他家のツモが-757点です。 選手ページではこのリーグ平均との差を並べているので、どこで稼ぎ、どこで失っているかが比べられます。
8. セミファイナル進出確率
残りの試合を20,000回シミュレーションし、各チームがセミファイナル・ファイナルに進み、優勝した割合を確率としています。 1試合ごとに、過去のMリーグの試合結果(1位〜4位のポイント)を1つ選び、4チームに無作為に割り当てます。 そのうえで、所属選手の「運を除いたポイント」の実力推定の平均をチームの実力とし、各チームのポイントをわずかにずらします(4チームの合計は0のまま)。
大会方式は公式発表に合わせています。レギュラーシーズンは各チーム120試合で上位6チームが、セミファイナルは各チーム20試合で上位4チームがファイナルに進みます。次のステージへはポイントの半分を持ち越します(前シーズンの公式記録で確認)。
対戦の組み合わせは事前にわからないため、各チームの残り試合数が合うように無作為に組んでいます。 1試合の結果は相手チームと無関係に選ぶので、組み合わせの違いが確率に与える影響はほとんどありません。
9. この計算の限界 — 知っておいてほしい単純化
| 単純化 | 内容と影響 |
|---|---|
| 実力はシーズン中一定 | 調子の波や成長は考えていません。好不調が本当にあるなら、その分は「運」に含まれます。 |
| 選手の実力差の大きさ | 着順・ポイントのkは幅が大きく、上限が定まりません。推定値の引き戻しの強さも、その分だけ不確かです。 |
| 測れる運は一部だけ | 配牌・ツモ・裏ドラ・一発以外の運(相手の待ちに当たったか、など)は差し引いていません。 |
| ツモの良さの補正 | 他家の手牌の偏りを、向聴数ごとの比率でまとめて補正しています。局面ごとの細かな偏りは残ります。 |
| トップ確率の局の結果 | オーラス以外は、点数状況によって戦い方が変わることを考えていません(トップ目の守りなど)。本場・供託による点数の違いもおおまかです。 |
| チームの実力 | 所属選手の平均で、誰が何試合に出るかは考えていません。実力差自体が小さいため、進出確率への影響も小さくなっています。 |
| 対戦の組み合わせ | 実際の日程ではなく、残り試合数が合うように無作為に組んでいます。 |
| 牌譜の不備 | 書き起こしに不備のある局は除いています(全体の約0.3%)。その局は打ち方と運の指標に反映されません。 |
| 対象の範囲 | Mリーグの試合だけで推定しているため、選手の他の対局の実績は含みません。 |
コラム:なぜ推定値はこんなに平均に寄るのか
サイコロを25回振って出た目の平均を比べる大会を想像してください。全員が同じサイコロでも、平均が3.1の人もいれば3.9の人もいます。 ここで「3.9の人はサイコロが上手い」と言う人はいません。
Mリーグの1シーズンは、1人あたり約25半荘です。この試合数では、プロ同士の実力差より運によるばらつきの方がはるかに大きく、 1シーズンのポイント差のうち運で説明できる割合は推定94%です。 推定値が平均に大きく寄るのは、計算が慎重すぎるからではなく、1シーズンのデータにはそれだけしか実力の情報が含まれていないからです。
詳しくは研究記事「Mリーグの着順はどれだけ運で決まるのか」をご覧ください。
参考文献
- Ogami, Amano, Tsuruoka. "MJ-DLVAT: A Deep Learning Value Assessment Technique for Mahjong." IEEE, 2024.
- Burch et al. "AIVAT: A New Variance Reduction Technique for Agent Evaluation in Imperfect Information Games." AAAI, 2018.
- Duersch, Lambrecht, Oechssler. "Measuring skill and chance in games." European Economic Review 127, 2020.
- とつげき東北・伊藤毅志「牌譜の解析による麻雀の分析」人工知能学会誌 24(3), 2009.
- Li et al. "Suphx: Mastering Mahjong with Deep Reinforcement Learning." arXiv:2003.13590, 2020.
本ページの内容は統計的な推定とシミュレーションの解説であり、計算結果はMリーグ機構の公式発表ではありません。