コラム 選手

内川幸太郎の放銃打点は高いのか?

伝説の四暗刻単騎と、開局の親の大三元。何度も見る2つの役満への放銃は、内川幸太郎の麻雀の姿なのか。放銃打点を牌譜で確かめると、リーグ平均並みでした。

2020年2月25日、南4局2本場。

持ち点100点のラス目だった内川幸太郎選手は、海底で西を掴みました。長考の末にツモ切りした西は、黒沢咲選手の四暗刻単騎。32,000点の放銃でした。本人は後のインタビューで、西は待ちとして「本命に近い牌」だと思っていたと振り返っています(Number)。Mリーグ公式の動画は700万回以上再生され、この放銃をきっかけに内川選手は大和証券のCMにも起用されました。リーグ屈指の名場面です。

それから6年後の2026年4月23日、セミファイナルの開局。今度は下石戟選手の親の大三元に、48,000点の放銃です。ABEMA TIMESは「またも単騎の役満に放銃」と報じました。このサイトの牌譜で数えると、Mリーグで役満に2回放銃した選手は、内川選手のほかにいません。

何度もリプレイで見るこの2つの場面から、「内川選手は大きな手に放銃する」という印象を持っている人は多いかもしれません。数字で確かめてみます。

放銃打点は、リーグ平均並み

内川選手が放銃したのは、通算2,745局のうち309回。1回あたりの放銃打点は次のとおりです。

放銃1回あたり内川選手リーグ全体
平均 5,677点 5,644点
中央値 5,200点 5,200点

平均はリーグとほぼ同じで、真ん中の値(中央値)はまったく同じです。放銃打点の推定値は5,660点(90%区間 5,389〜5,932点)で、通算40半荘以上の49人中25位。ちょうど真ん中です。

放銃した手の大きさの内訳を見ても、大きな手に偏ってはいません。

放銃した手内川選手リーグ全体
満貫未満 64.4% 65.2%
満貫 30.7% 28.2%
跳満 3.2% 5.8%
倍満 1.0% 0.6%
役満 0.6% 0.1%

跳満への放銃は、むしろリーグより少なめです。

役満2回は、本当に珍しい

一方で、役満への放銃が2回あるのは、確かに珍しい出来事です。

リーグ全体で、放銃のうち役満だったのは0.12%、およそ800回に1回です。内川選手の309回の放銃なら、偶然に任せると役満は0.36回ほど。2回以上になるのは約5%、20人に1人くらいの確率です。

ただ、この2回が平均を押し上げてもいます。役満の2回を除くと、内川選手の平均放銃打点は5,453点で、リーグ(役満を除いて5,610点)より低い側になります。309回のうちのたった2回で、平均が220点ほど動いているのです。

つまり、「役満への放銃が2回ある」のは本当に珍しいことですが、それは「大きな手に振りやすい打ち方」の証拠ではありません。残りの307回は、むしろ平均より小さな放銃でした。

役満との縁

実は、内川選手と役満の縁は放銃だけではありません。内川選手が卓にいた局で、他家が役満を和了ったのは6回。放銃の2回に加えて、ツモられたのが4回あります(近藤誠一、松本吉弘、佐々木寿人、滝沢和典の各選手)。

リーグ全体の役満ツモの頻度から計算すると、内川選手の局数なら他家の役満ツモは1.7回ほど。4回以上になるのは約9%です。役満への放銃と合わせて、内川選手が「役満の場面に居合わせる」ことが多かったのは確かで、しかもその多くはツモられたもので、内川選手には防ぎようがありません。

ちなみに、内川選手自身の役満の和了は、まだありません。

伝説の放銃の「本当の損」

このサイトでは、各局の前後で、選手の期待ポイント(その時点から最終的に何ポイントで試合を終えそうか)がどれだけ動いたかを計算しています。2つの場面を並べると、印象とは違う姿が見えます。

場面期待ポイントの変化
2020年四暗刻単騎(南4局、持ち点100点のラス目から) −32.6pt
2026年大三元(東1局、全員25,000点から) −79.6pt

伝説の四暗刻単騎は、放銃の前からラスがほぼ決まっていた場面でした。南4局2本場が始まった時点で、このサイトのモデルによる内川選手の着順の確率は、ラスが97.2%、3着が2.8%、1着と2着はほぼ0%。着順は変わらず、失ったのは点数の分だけです。同じ時点で3着の確率が96.4%だった黒沢選手は、この役満で一気にトップになりました(期待ポイント +94.0pt)。一方、大三元は開局の放銃で、そこから一気にラス目に沈み、その試合は4着(▲72.5)で終わりました。

名場面として語られるのは2020年の方ですが、ポイントの損が大きかったのは2026年の方でした。

もう1つ、2026年の場面は「押して放銃した」ものでもありません。下石戟選手は四索を切って九筒単騎に待ちを変えた直後で、内川選手は引いた九筒をそのままツモ切りしています。手の内から選んで押した牌ではありませんでした。

2020年の西のツモ切りが正しかったかどうかは、このサイトでは判定しません。チーム戦の状況(当時のチームの順位や、他チームにトップを取らせたくない事情)など、牌譜の外の要素が大きいためです。

なぜ「大きな手に振る」印象が残るのか

何百万回も再生された場面は、私たちの記憶の中で「内川選手の放銃」を代表してしまいます。309回の放銃のうち、ほとんどの人が思い出せるのは2回だけでしょう。そして、その2回はどちらも役満です。

これは、珍しくて印象の強い出来事ほど、よく起きることのように感じてしまう心理(利用可能性ヒューリスティック)の典型です。園田賢選手のコラムで見た「不運の記憶」と同じ構図です。

なお、放銃の回数は少しだけ多めです。放銃率は11.3%で、リーグ(10.9%)をわずかに上回り、推定値は49人中32位。とはいえ90%区間(10.3〜12.0%)はリーグ平均を含み、はっきり多いとまでは言えません。

結論:放銃打点は高くない

内川選手の放銃打点は高いのか。答えはいいえ、リーグ平均並みです。

何度もリプレイで見る2つの場面は、内川選手の麻雀の代表ではなく、309回のうちの珍しい2回でした。


方法と注意

参考

このコラムに登場する選手:内川幸太郎